工作中にいつも迷うのは、スジボリの深さです。浅すぎると、塗装の過程で埋まってしまう心配があります。一方、深すぎると、貫通したり割れたりという心配が出てきます。
そもそもスジボリはパーツ分割をイメージして入れているので、割れさえしなければ深すぎて困るということはありません。均一な深さになっていなくても、スミ入れをすれば仕上がりにそう影響はないように思います。
しかし、工作の手間と時間。何より、深く掘るためには何度も刃を入れることになり、行き過ぎたりはみ出したりという危険性は高まります。できるだけ少ない手数で終わらせたいところです。
そこで、今回は塗装するときに必要なスジボリの深さを確認していきます。
使用した工具
スジボリに使った道具は次の4種です。
いわゆるケガキ針です。砥石付きでそちらも重宝しています。
(2)ファンテック スジ彫りカーバイト0.15
ガンプラを始めたころ、タガネは高くて手が出ないなぁ、と思っていた時に目入りスターターセットで購入しました。付属の0.15mmが万能すぎるのと、専用持ち手がとても手になじみます。コスパは非常に高いです。
(3)ファンテック スジ彫りカーバイト0.25
専用持ち手に差し替えて使います。装甲パーツなど、ガツッとラインを入れたいときには0.25mmでスジボリを入れています。
(4)タミヤ デザインナイフ
確か高校生の頃に購入したのでもう25年以上前に購入したものだと思いますが、いまだ現役です。さすがに刃は買い替えていますが、そのころから規格が変わっていないのですね。デザインナイフでスジボリを入れる、という手法があるのは知っていたのですが、今回が初実践です。
スジボリの深さ調整
それでは、プラスチックスプーンにスジボリを入れていきます。ガイドテープを貼り、その両サイドに深さが異なるスジボリを入れていきました。
ガイドテープがないと、直線のスジボリは引けません。
「削る」というよりも「なでる」くらいの力加減でなんどもなぞって線を引いていきます。スジボリを彫った跡はけば立っているので、600番の紙やすりで表面をならしました。
次の①~⑦のサンプルを準備しました。なでるくらいの力加減で「何回」なぞるかで深さを調節しました。それぞれの工具についてなぞる回数を、5、10、15、20回としました。
①ケガキ針 左:5回、右:10回
②ケガキ針 左:15回、右:20回
③カーバイト0.15 左:5回、右:10回
④カーバイト0.15 左:15回、右:20回
⑤カーバイト0.25 左:5回、右:10回
⑥カーバイト0.25 左:15回、右:20回
⑦ デザインナイフ 左:1回、右:2回
※デザインナイフは3回目の刃を入れると切断してしまいそうだったため、2回でやめました。
塗装開始
それぞれにキャンディ塗装を施していきます。塗装は次の手順です。
下地層:アルティメットブラック
メタリック層:クレオスC159スーパーシルバー
クリアカラー層:クレオスGX102ディープクリアレッド
それぞれの塗装は2回ずつ重ねています。塗装条件は過去の記事を参考にしてください。
<過去記事>
〇キャンディ塗装のカラーサンプルを作る(1) 下地黒の塗装条件を検証
〇キャンディ塗装のカラーサンプルを作る(2) 金銀銅鉄系のメタリック塗料を検証
〇キャンディ塗装のカラーサンプルを作る(3) ディープクリアレッドの塗り重ねを検証
1層目、アルティメットブラックを塗装しました。2回塗装しています。重ね塗りをしない場合のサンプルとして紹介しておきます。
①、②:ケガキ針
ケガキ針を使ったサンプルです。左から①5,10回、②15,20回です。5回でも十分にスジボリのラインが確認でき、スミ入れをするには十分な深さがあります。重ね塗りをしないでスミ入れするだけなら、5回でも十分な感じです。
③、④:スジボリカーバイト0.15
左から①5,10回、②15,20回です。やはり5回でも十分にスジボリのラインが見えます。こちらも、5回でスミ入れをするには十分な深さがあります。逆に、20回になるとパーツを貫通しそうでヒヤヒヤしました。
⑤、⑥:スジボリカーバイト0.25mm
左から①5,10回、②15,20回です。やはり5回でも十分にラインを確認でき、スミ入れをするには十分な深さがあります。写真ではわかりにくいですが、幅があると圧力が分散するのか、それぞれのラインは0.15mmで同じ回数彫ったときより若干浅いように見えます。
⑦デザインナイフによる切り込み
デザインナイフはスジボリというより切り込みになりました。 左から1回、2回です。1回切り込みを入れただけでは、一回の塗装でほぼ埋まってしまい存在感がありません。2回切れ込みを入れた右の筋も風前の灯火です。
キャンディー塗装
アルティメットブラックが乾燥したのち、クレオスC159スーパーシルバーで塗装し、さらにディープクリアレッドを重ねました。
ディープクリアレッド1回目
写真は③0.15mm、左5回、右10回のスプーンです。ディープクリアレッドを1回塗装したところなのですが、スジボリの跡に塗料が集まっているのが分かります。スジボリのけば立ったところに表面張力で塗料が集まっていく感じで、スジボリ後のヤスリ掛けが重要であることがわかりました。ただ、淵にも塗料がたまっているところを見ると、希釈が薄すぎた塗料を一度に吹きすぎた結果かもしれません。
この濃淡は、2回塗装した後はかなり目立たなくはなりました。それでも若干スジボリに沿って塗装が濃い部分が見えます。クリアカラーは塗装が厚くなればその分色味が濃くなるので、スジボリによるけば立ちは、目に見えないレベルでもしっかりと平らにならしてやる必要がありそうです。
ディープクリアレッド2回目
①、②:ケガキ針
左から①5,10回、②15,20回です。キャンディ塗装にすると、5回では埋まってしまう寸前になり、上手くスミが流れ込むか不安な深さです。15回を超えると、モールドはしっかり残るのですがけば立ちが大きくなり、クリア塗料の集まり方が目立つように思います。10回も彫ればスミ入れには十分な深さがあります。
③、④:スジボリカーバイト0.15mm
左から③5,10回、④15,20回です。やはり、10回(左から二本目)でスミ入れするには十分な深さが確認できます。5回では、ケガキ針ほどではありませんがやはり埋まってしまう半歩手前になり、もう少し深さが欲しいところです。ケガキ針に比べて塗料が集まっている感じはありませんでした。針でけがくのと、刃で削るのでは、けば立ち方に差があります。
⑤、⑥:スジボリカーバイト0.25mm
左から⑤5,10回、⑥15,20回です。5回では深さが足りず、15回や20回ではけば立った感じやよれた後が目立ちます。手数は少なければ少ないほど、誤差が少なくて済み、仕上がりはキレイになりました。
⑦デザインナイフによる切り込み
左から1回、2回です。と、言っても左側(1回)の方は厚い塗料に覆われてほぼ消えてしまいました。肉眼でよくみればうっすらと筋が残っている程度です。2回の方は、写真ではかろうじてうっすらと筋が見えますが、とてもスミ入れができるほどの深さはありません。デザインナイフによる切り込みをこれ以上深くすると今度は切断してしまいそうです。切り込みをモールドとしてそのまま使うのは難しそうです。
結論
スジボリを彫る回数は、「軽くなぞる力で10回程度」を目安にすると、「けば立ち」や「よれ」のダメージを最小限にしつつ、キャンディ塗装であっても十分な深さが得られることが分かりました。
ただし、この「回数」はプラスチックの硬さによっても違います。彫ってみた感触としては、スプーンの方がガンプラのプラスチックよりも硬く、削りにくい感触がありましたので、ガンプラを彫るときは少ない回数でも同じ深さになると思います。
使用しているエアブラシセットは、エアテックスさんから出ている「メテオ」です。
次回は今回検証した全部の要素を盛り込んでスプーンを塗装してみようと思います。